目の眼京都迷店案内

其の四拾参大吉

2020.09.11

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 もともと「大吉」は割烹料理屋であった。それが平成元年、今のような骨董屋になったのだという。今も遺るカウンターには、嘗て多くの文人、数寄者も坐っていたという。
 そんなお店に生まれた理さんとはどんな人生を送ってきたのだろうか。

 理さんは1971年(昭和46)京都に生まれた。生祥小学校から平安中学校を経て、サンフランシスコの高校へ行く。そして1993年に帰国後、骨董屋に代わって間もないころの「大吉」を手伝うことになる。
 「物心ついた時から生活の中に身近に骨董がありました。兄は古い物に全く興味がなかったのですが、僕は子供の頃から歴史などが好きで、古いモノが好きでした。同じ環境で育っても好みが違うというのが面白いですね。アメリカに留学中も古伊万里を実家から持って行き使ったりしていましたので、店の手伝いを始めたことはごく自然な流れだったと思います」と話してくれた。

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 引き戸を開けて中に入ると、常に音楽が流れているのも「大吉」ならではのことだ。理さんはパンク・ロックが好きだという。ファッションも凡そ骨董屋よりはクラブのDJが似合いそうな出で立ちである。お客様の話を聞くと京都以外の方が多く、男女の比率でいうと半々くらいだそうだ。「大吉」というと東京の催事で、ちょっと感じのいいもの、面白いものを出すお店というイメージがある。
 「催事は基本、店にあるものを持って行くのではなく、毎回その催事ごとに自分の中でテーマを考えた品揃えをしています。店は、場所柄通りがかりの観光の方が多いので、初めての方でも使える、買いやすい物、骨董の入り口になるような物から、コレクターの方々にも見ていただけるような逸品も揃えています。
 コロナ禍の今、観光地であった京都の人の流れが全く変わってしまいました。今後の店の在り方については考えなければならない時でありますが、基本自分の好きな物を置くということは変わりません」。

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 ここで少し意外な話を聞いた。
 「パンクのDIY精神と、民藝の柳宗悦が提案した骨董を自分の生活の中で使ってみることは、同じことを言っていると思います。だから僕の中ではパンクムーブメントも民藝運動もどちらもロックだと思いますし、今でもこの仕事をしている中で僕の血と骨みたいなものになっています。
 SNSが普及して、骨董が身近なものになったんですけれど、ある意味本当にモノのありがたみが薄れてしまったように思います。これから大きな変化もあるような気がしますが。また音楽の話になりますけど、ネットで音楽を聴くのではなく、レコードやカセットテープにまた戻る人もいる訳で、骨董もネットで販売するのが主流ではなく、人と人とが現物を手に取りながら売買するという元の形に戻るような巻き戻しも来るのかな、と思いますね」。ここに理さんの求めている道が垣間見えた気がした。

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 最後に好きなモノについて聞いてみた。
 「あまり美術館所蔵のもので欲しいと思ったものはないのですが、根津美術館蔵の「此世」という井戸手の香炉、あれだけは欲しいなって思います。一回手に取ってみたいなと。あれにハイボール入れて呑んでみたいなと(笑)。
 やっぱり酒器が好きですね。好ましいものは仕入れるようにしてます。あと古窯の壺も大好きです。日本の壺もずいぶん求めやすい値段になっていますが、好きな者としてはそれが逆にありがたいことだなと思っています。朝鮮や日本の好きなものはこれからもずっと扱っていきたいです」。

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 寺町二条にある「大吉」のはす向かいには、嘗て梶井基次郎の『檸檬』の舞台にもなった「八百卯」というお店があった。ここで檸檬を手に入れた主人公は、当時麩屋町通にあった丸善に向かう。この店も今はシャッターが降りたままになって何年が経つのだろう。
 この20年ですっかりいろいろなことが変わってしまった。変わってしまったのは人の心だけで、モノは何も変わってないと「大吉」のショウウィンドウに飾られたモノたちを見ながらそう私は想った。

(上野昌人)

店名 大吉
住所 京都府中京区寺町通二条下ル妙満寺前町452 >>Google Mapへ
電話番号 075-231-2446
営業時間 11:30〜16:00
月曜定休